2012年9月9日日曜日

「ふくすけ」と「幸福論」


ずいぶん前のことになってしまうが、大人計画の舞台「ふくすけ」@シアターコクーンを観てきた話をしよう。先週末で東京公演も終わったようだね。私が観たのは、8月15日(水)の夜公演。お盆だし、仕事もラクかと思いきや、結構予想外にも忙しくて、バタバタと開演ギリギリに劇場に駆け込んだ。 

大人計画のキョーレツ作品「ふくすけ」の初演は1991年、再演は1998年… 今回が久々の再々演 らしい。とにかく豪華キャスト… 定番の阿部サダヲは勿論のこと、古田新太、多部未華子、大竹しのぶまで… どんな作品なのか興味深々だったわけだが、その衝撃的な内容は、何とも言い表わしがたいぐらいキョーレツだった。ダーク、グロ、悪、負、狂、毒 … なんかそのあたりのモノ全てひっくるめて、爆弾にしてみたけど、どう?! カオスでしょ?!…でも結構笑えるよ… っていうか、その要素を笑い転じているのが、更に恐い!!★ …って感じの舞台。 

衝撃的な作品… と言えば、ここ近年では、映画「ブラックスワン」なんかあったりして、その蜷川実花バージョンと言える「ヘルタースケルター」も最近大ヒットしたが… そのあたりの“衝撃的”と同類では語れないほどのモノであることは間違いない。… そして、大竹しのぶは凄かった!! さすがである。そして、多部ちゃんはとにかく可愛くて、この舞台を観ている側にとって、多少の朗らかな気持ちを与えてくれる存在だった。

先日、松尾スズキ氏が、以下のように呟いていた。

キャストだけでは無い。既にこの演目を21年前に初めて手掛け、今回は再々演なのにも関わらず、脚本・演出を手掛ける松尾スズキ氏ですら、やはり精神的に相当きつかったようだ。

ところで・・・
先週、アランの「幸福論」という本を読んだ。
この本は、哲学者であったアランが新聞に毎日連載していたPropoの中で、幸福にまつわる93個のProposを1928年にまとめて出版したものだ。



人間というものは、本当にすぐ考えすぎてしまう。そして、考えすぎて、思い詰めてしまうから、精神的ストレスが溜まってしまう生き物だ。アランは、心と体の関係について多く論じている。ストレスを感じたら、それが体の反応に影響するというものだ。例えば、躁欝病の人の血球数は、欝になるときに減少し、躁の時にはまた増えるらしい。つまり欝状態になった時に、誰も自分のことを理解してくれないとか、生きている意味なんてない的なことを思うよりも、血球数が減ったのだから仕方が無いと思った方が気がラクじゃないか?…なーんてことも語っていたりする。面白いよね。ちなみに、人間があくびをしたり、肩をすくめたりするのも、自然に緊張(ストレス)を解こうとしているからなのよね。

しかし、人間は自ら苦労して、困難を克服することによって幸福を得ようとする。棚ボタ的なものにあまり幸福を感じない。負ける可能性があるからこそ、賭け事やゲームを好む。そして、全く苦労をしない王様は退屈してしまうからこそ、戦争を引き起こすことになる。…なるほど。 

「ふくすけ」でいうと、本当にとてつもない不幸なダークな世界を描いているが、それは平穏な観客の心を、究極のマイナス状態に引っ張るようなモノ。だから、キョーレツでもある。しかし、多部ちゃんが可愛いとか、ちょっとしたユーモアが、所々少しリラックスさせてくれる。でも、松尾スズキ氏も、演じている役者も…こういう重たいモノに挑むのは、更にそれを乗り越えた快楽や達成感を求めているからこそ出来ることなのよね。人間って、実は究極のサドであり究極マゾでもあると思う。うん。

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